世界の「目的」や「存在理由」を問い直す:ユニークなSFパラレルワールド設定の発想術
はじめに:世界の「目的」という視点から生まれるユニークな設定
SF小説において、パラレルワールドは魅力的な舞台設定の一つです。しかし、単に物理法則や歴史が異なる世界を描くだけでは、既視感を避けられないこともあります。ユニークなパラレルワールド設定を生み出すためには、より根源的な部分に切り込む視点が必要です。
ここで提案したいのが、「世界の目的」や「存在理由」という切り口です。私たちの住む世界には、科学的に解明された物理法則や生命の進化、社会構造などがありますが、世界全体が「何のために存在しているのか」「どこへ向かっているのか」といった、より高次の、あるいは隠された目的がある可能性は、SF的な想像力を掻き立てます。
この記事では、このような「世界の目的」や「存在理由」を再定義することで、他の作品と差別化された、深いテーマ性を持つパラレルワールド設定を発想するための具体的な手法や視点を提供します。SF小説の創作に行き詰まりを感じている方、よりユニークなアイデアを探求したいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
世界の「目的」や「存在理由」を再定義するとは
ここで言う「世界の目的」や「存在理由」とは、単なる物理的な仕組みや社会的な目標を超えた、世界そのものが持つ根源的な性質や、その存在が目指している(あるいは強いられている)方向性、あるいはその存在自体の理由を指します。これは、宇宙論、哲学、あるいは形而上学的な概念に触れる部分ですが、これをSF設定に取り入れることで、世界全体に一貫した、あるいは意図されたかのような構造や法則性を付与することができます。
例えば、私たちが慣れ親しんだ世界では、生命は進化し、文明は発展を目指す傾向がありますが、これはある種の「目的」や「方向性」と見なすことも可能です。パラレルワールドでは、この根源的な「目的」そのものが異なるのです。
ユニークなパラレルワールド設定を発想する切り口
世界の「目的」や「存在理由」を起点にユニークなパラレルワールド設定を発想するための具体的な切り口をいくつかご紹介します。
1. 世界が目指す「最終状態」を規定する
そのパラレルワールド全体が、ある特定の最終状態や目標を目指して進化、あるいは変化していると設定するアプローチです。この目標は、従来のSFで描かれることが多い文明の発展や種の存続といった目標とは異なる、奇妙でユニークなものであるほど、世界設定は際立ちます。
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発想のヒント:
- 世界全体の物理法則が、特定の概念(例:絶対的な秩序、完全な混沌、情報の最大化)の実現を促進するように設計されている世界。
- 生命の進化が、特定の形態(例:非物質的なエネルギー体、単一の巨大生命体、特定の感情のみを持つ存在)に収束しようとする世界。
- 世界の時間が、特定の歴史的な出来事(例:ある特定の個体の誕生や死、特定の概念の発見)に向けて巻き戻ったり加速したりする世界。
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アイデア例とその応用:
- アイデア: 世界全体が、すべての物理情報を一つの情報特異点に集約しようとする「情報収束世界」。
- ユニークさ/応用: この世界では、存在するものすべてが情報を持ち、その情報密度が高まるほど、その存在はより「実在」するようになります。物語は、情報収束を加速させようとする勢力と、情報拡散によって個の存在を維持しようとする勢力の対立を中心に描くことができます。物理法則も情報密度に依存するなど、具体的な設定に落とし込めます。
2. 世界の「存在理由」を外部または内部の「意図」に求める
そのパラレルワールドが、何らかの外部の存在(超知性、神、未来の観測者など)や、内部の集合意識によって、特定の目的のために「創造」または「維持」されていると設定するアプローチです。その「意図」が世界の様々な側面を規定していると考えるのです。
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発想のヒント:
- 世界が、特定の物理法則や生命体の組み合わせを実験するための巨大なシミュレーションである世界。
- 世界が、特定の感情(例:悲しみ、喜び、探求心)を「収穫」するために存在する世界。
- 世界に存在する全ての物理的実体が、ある超知性の思考プロセスの一部である世界。
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アイデア例とその応用:
- アイデア: 世界が、人類の「自己認識」の進化を促すために設計された、巨大な認知訓練場である世界。
- ユニークさ/応用: この世界では、自己認識を深める行為(例:内省、芸術創造、哲学的な探求)が世界の安定や繁栄に直接的に寄与し、逆に無自覚な行動や思考停止は世界を不安定にする原因となります。世界の物理的な災害が、集合的な自己認識のレベルと連動するなど、独自のルールを設定できます。登場人物は、世界の真の目的を知ることで、自身の存在意義や行動原理を問い直すことになります。
3. 世界の「存在理由」が動的、不明、あるいは複数存在する
世界の「目的」や「存在理由」が固定されておらず、常に変化したり、全く理解不能であったり、あるいは複数の矛盾する目的が同時に存在したりすると設定するアプローチです。これは世界の不安定さや不確実性を描く上で有効です。
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発想のヒント:
- 世界の目的が、時間経過や特定の出来事によって突然変異する世界。
- 世界の存在理由が、それを観測する存在の数や性質によって変化する世界。
- 複数の異なる「意図」が世界を同時に引っ張り合っており、場所によって世界の法則や目的が異なる世界。
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アイデア例とその応用:
- アイデア: 世界全体が、異なる創造主たちの「ゲーム」の盤面であり、そのゲームのルールや目的が時間によってランダムに切り替わる「ゲーム世界」。
- ユニークさ/応用: この世界では、物理法則や因果律が予期せず変動します。住人たちは、現在の世界の「ルール」(ゲームの目的)を素早く把握し、それに適応しなければ生存できません。昨日は「資源の獲得」が目的だった世界が、今日は「他者の排除」が目的になるなど、予測不能な展開が生まれます。主人公は、この変化のパターンを解読しようとするかもしれませんし、あるいはゲームそのものを終わらせる方法を探すかもしれません。
4. 世界そのものが特定の「概念」の顕現である
単なる物理的な法則やエネルギーだけでなく、抽象的な概念(例:希望、絶望、論理、矛盾)そのものが世界の基盤となり、その概念が存在すること自体が世界の目的であると設定するアプローチです。これは既存の「非物質要素」の切り口を発展させたものです。
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発想のヒント:
- 世界の物理的な現象が、人間の集合的な感情の「論理的な帰結」として発生する世界。
- 特定の美的な概念(例:対称性、非対称性)が、世界の構造や物質の性質を決定している世界。
- 世界に存在する全ての物理的な実体が、ある究極的な真理を証明するための「証拠」である世界。
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アイデア例とその応用:
- アイデア: 世界全体が、「論理的な矛盾」の顕現であり、矛盾を内包するほど、その物理的な存在は安定し、強固になる「矛盾世界」。
- ユニークさ/応用: この世界では、論理的な整合性は存在を不安定にさせ、自己矛盾を抱えることこそが強さの源泉となります。パラドックスは力の源であり、真実は弱さの原因です。物語は、徹底的に矛盾を追求して力を得るキャラクターや、逆に論理的な世界の復元を目指すキャラクターたちの葛藤を中心に描けます。コミュニケーションや思考方法、技術体系も私たちの世界とは全く異なるものになります。
アイデアを深めるための思考フレームワーク
これらの切り口から発想したアイデアをさらに深めるためには、以下の点を自問自答すると効果的です。
- なぜ、この世界にはその「目的」や「存在理由」があるのか?(起源、創造主、自然発生など)
- その「目的」や「存在理由」は、世界の物理法則、生物、社会、歴史に具体的にどのような影響を与えているか?
- その「目的」に沿った行動をとる存在と、反する行動をとる存在は、それぞれどうなるのか?
- 世界の住人は、自分たちの世界の「目的」や「存在理由」を知っているのか? 知っている場合、彼らはそれに対してどのように反応しているのか? 知らない場合、彼らはそれをどのように誤解しているのか、あるいは探求しようとしているのか?
- その「目的」や「存在理由」は、物語の主要なテーマやキャラクターの行動原理とどのように結びつくのか?
これらの問いに対する答えを具体的に詰めていくことで、単なる奇抜なアイデアから、物語の核となりうる深みのある世界設定へと発展させることが可能です。
まとめ:根源的な問いかけが新たな世界を創る
SF小説におけるパラレルワールド設定において、「世界の目的」や「存在理由」という視点を取り入れることは、既存の設定に囚われず、独自のユニークな世界を創造するための強力な手法です。世界全体が何のために存在し、どこへ向かっているのかという根源的な問いかけは、物理法則や社会構造といった表面的な違いを超えた、世界の魂とも呼べる部分に触れることを可能にします。
この記事で紹介した切り口や思考フレームワークが、あなたの創作活動におけるアイデア枯渇の壁を打ち破り、他の作品との差別化に繋がる新たなパラレルワールド設定を生み出す一助となれば幸いです。ぜひ、あなたの創造力で、これまでにない「目的」を持つ世界を探索してみてください。